ダウ

チャート分析の源流として今なお有効なダウ理論
チャールズ・ダウ(1851年~1902年)はアメリカが西部開拓に沸いた19世紀後半に活躍した金融ジャーナリストです。米国において初めて体系的なチャート分析理論を構築した人物として知られ、金融専門紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』を創刊し、1896年にはダウ・ジョーンズ工業株平均株価を開発しました。
彼が構築した「ダウ理論」は株価だけでなくFXの値動きにも十分通用するものなので、6つの理論を株ではなく為替レートに置き換えて概観しましょう。

(1)市場すなわち為替レートはすべての情報を織り込む。

為替レートは各国の経済や金利の状況、政府要人の発言や中央銀行の金融政策といった「ファンダメンタルズ」の影響を受けます。また、買いや売りで勝負した投資家の利益確定・損切り行動など、実際に為替の取引をしている「投資家事情」にも左右されます。為替レートが日々変動する理由はこれらの情報が変化するせいですが、逆の見方をすれば、すべての情報はかならず為替レートの値動きに反映されています。
つまり、為替レートの未来を予想するには、値動きだけを見ていればいいわけです。為替レートの値動きを示したものは「チャート」です。「市場はすべての情報を織り込んでいる」というチャールズ・ダウの考え方は、チャート分析が投資の最重要ツールであることに対する理論的な根拠となり、テクニカル分析の源流になったのです。(2)為替レートのトレンドには3つの波動がある。

ダウ理論の根幹をなすのは、為替レートの値動きは「トレンド」によって支配されている、という考え方です。「トレンドに乗った取引をする」というのは今では当たり前の投資手法ですが、ダウ理論はその礎になりました。彼はトレンドを、

● 1年から数年続く「長期メイントレンド」
● 数週間から数ヶ月程度の「中期トレンド」
● 1時間から1ヵ月程度の「短期トレンド」

の3つの局面でとらえました。
中期トレンドは主に長期メイントレンドとは逆方向の調整局面を示し、その修正幅は33%から66%に及ぶと考えられています。いわゆる「3分の1押し」や「3分の2戻し」です。
図2はドル/円の月足チャートですが、2007年6月から続く長期下降のメイントレンドの中でも、数ヶ月程度の上昇が起こり、中期修正トレンドが何度も発生しています。ドル/円の長期トレンドの下落幅に対する中期トレンドの戻り幅を計算すると、おおむね50~60%戻しの範囲に収まっています。中期の修正トレンドが起こる期間はまちまちですが、いかに下降トレンドとはいえ、その間、かなり大きな修正上昇が起こっていることが分かります。

トレンドの3局面。その継続・転換は直近高値や安値に注目
(3)トレンドには3つの局面がある。

単なる値動きだけでなく、その裏の投資家事情から、チャールズ・ダウはトレンドに3つの局面があると指摘しています。
第1段階に相当するのが、市場全体の考え方に反して、一部の抜け目のない投資家が「買い集め」を行う時期です。第1段階ではまだ値動きはゆるやかなものですが、やがて、市場全体がその動きに追随して、急激な価格変動が起こります。チャート分析をもとに売買するトレンド重視の投資家が大挙して買いを入れるのはこの第2段階です。

次第に投機的な買いが猛威を振るうバブル状態の第3段階に移行しますが、そこでは第1段階で買った投資家たちの「売り抜け」が起こり、トレンドはやがて終焉するのです。

図3は2012年1月以降のユーロ/円の反発上昇とその終焉を示した日足チャートですが、ダウが示したトレンドの3つの局面が上昇と下降の両面でよく分かる値動きになっています。(4)トレンドは明確な終わりのシグナルが発生するまで続く。

ダウ理論では、トレンドは「市場のノイズ」のような一時的な価格変動の影響を越えて存在するものだと見なされています。為替レートの変動が、ノイズなのか、それとも明確なトレンド転換なのかを判断するのは難しいところですが、その際にダウ理論が重視するのは直近の高値や安値です。
たとえば、ふと海を見ただけでは今が満ち潮なのか引き潮なのか分かりません。しかし、しばらく観察していて、波が以前届いた地点を次から次へと越えてくれば満ち潮と判断できます。反対に以前到達した地点まで届かなくなってくれば引き潮です。

これまでの高値や安値を、一時的ではなく、次々と明確に上回ったり下回ったりするような状態が満ち潮や引き潮、つまり上昇トレンドや下降トレンドとして定義されるのです。●上昇トレンド=為替レートが直近安値を下回らず、直近高値を上回って上昇している状態
●下降トレンド=直近安値を下回り直近高値を上回らないまま下降している状態
●トレンド転換=直近高値・安値の更新状況が逆転したとき
さらに、ダウ理論では横ばい相場のことを「ライン」と呼び、図3で見たトレンドの3つの局面の第1段階「買い集め」や第3段階「売り抜け」といったトレンドの初期や末期で起こりやすいとされます。

いわゆる「高値持ち合いの下放れ」「底値持ち合いの上放れ」など、レンジ相場に関しても、そのときに支配的なトレンドとの関連性で見ていくことが大事なのです(図5のドル/円日足チャート参照)。日本の投資家は「安いから買う、高いから売る」という逆張りが好きなことで知られています。トレンドフォローといっても、直近の値動きに対しては逆張りといえる押し目買いや戻り売りが推奨されます。
それに対して、欧米の投資家は株でも為替でも「高いから買う、安いから売る」という強気の順張りが得意とされていますが、その根底にあるのもダウ理論といえるかもしれません。

ダウ理論では、直近高値を上回ることが上昇トレンド継続の条件ですから、高値更新は明確な買いシグナルになります。だからこそ、「高いものをさらに高く買う」という強気順張りの発想が生まれるわけです。
ダウ理論にはほかに、

(5)トレンドは複数の指標によって確認すべき
(6)トレンドは出来高によって確認できる

というものもあります。現在、「NYダウ」と呼ばれている株価指数は工業株平均のことで、それとは別に「鉄道株平均」も考案されました。取引所で売買される株式投資においては「出来高をともなったトレンドこそ強いトレンド」というダウの教えを生かすことができます。ただし、FXではなかなか使いづらいので省略します。

とはいうものの、FXは株式投資以上に、世界中の投資家を相手にした取引です。そのため、欧米の投資家が投資理論の基礎にしているダウ理論を知っておくことは非常に重要です。
その発想は、徹底したトレンドフォローと強気順張りに代表されるといっていいでしょう。

過熱感指標にもトレンドフォローにも使えるRCI
さて、今回取り上げるもう一つのテクニカル指標はRCI(順位相関指数)です。
RCIはある期間の日付と為替レートそれぞれに順位をつけて、その期間の為替レートの勢いを-100%から+100%の間で指数化したものです。考え方の根底には、

「日にちが経過するにつれて為替レートが上昇している=上昇トレンド」

といった時間経過と為替レートの相関関係を重視する統計学的な考え方があります。
具体的な計算方法は図6に示したとおりですが、為替レートが5日間ずっと上がりっぱなしであれば期間5日のRCIは+100%に、下がりっぱなしであれば-100%になります。一般的には買われ過ぎ・売られ過ぎを示すオシレーター系指標と見なされています。その場合、RCIが-80%圏から上昇すれば底打ち反転、+80%圏から反転下落すれば下落モード入りといった売買判断を下すことができます。
外為オンラインのブラウザ版チャートを使えば、期間の異なる複数のRCIを表示することができるので、長短RCIが安値圏でゴールデンクロスしたら底値買い、高値圏でデッドクロスしたら天井売りといった取引を行うこともできます(図7)。こうしたレンジ相場の逆張りを狙った取引以外にも、RCIが高値圏にある=上昇トレンド、安値圏にある=下降トレンドと考えて、トレンドフォロー戦略に使うことも可能です。

たとえば、期間の長いRCIが-100%近辺にはりつき、下降トレンドが明白なときは、期間の短いRCIが長期線から離れて上昇したあと、再び反転下落に転じたポイントが格好の戻り売りポイントになります(図7)。

トレンドラインや移動平均線などトレンド系指標とともに組み合わせて使い、横ばい相場のときは過熱感指標として、強いトレンド発生時は押し目買い・戻り売りを探るツールとして使い分けることができるので非常に便利です。相場の値動きの特徴を「6つの基本法則」で説明するテクニカル分析の理論。
19世紀後半に米国の証券アナリストであるチャールズ・ダウ氏が考案しました。
6つの基本法則とは、
(1)平均はすべての事象を織り込む
(2)トレンドには3種類ある
(3)主要トレンドは3段階からなる
(4)平均は相互に確認されなければならない
(5)トレンドは出来高でも確認されなければならない
(6)トレンドは明確な転換シグナルが発生するまで継続する
の6つで、「上昇トレンドも下落トレンドも継続する」という考え方がベースになっており、現在でもテクニカル分析のバイブル的理論とされています。6つの基本法則のうち、(1)は、市場価格は需給バランスで決まるため、ファンダメンタルズなど、あらゆる情報が結局は織り込まれてしまうというという意味です。(2)は、トレンドには上昇トレンドと下落トレンドがあり、期間の長さから、長期(1年から数年)、中期(3週間から3カ月)、短期(3週間未満)に大別され、(3)でそれぞれのトレンドには、第1段階の先行期(先行投資家が仕込む時期で動きが緩やか)、第2段階の追随期(上昇銘柄に追随買いが入り急激な価格変動)、第3段階の利食い期(一般投資家も参加し始めるが、先行期に買った投資家は売り抜ける)があると説いています。(4)は、ひとつの指標だけではなく、複数の指標が同じ方向性を示すことでトレンドに確信が持てる。(5)は、上昇局面では出来高が増加し、下降局面では出来高が減少することを示しています。(6)は、市場トレンドは明確な転換シグナルが現れるまで継続するという意味です。古い理論ですが、現在でもテクニカル分析をする際の基本中の基本とされています。基本原則1 価格 (平均株価)は全ての事象を織り込む
1つ目の基本原則は「価格 (平均株価)は全ての事象を織り込む」です。

例えば株価は、企業の業績や経済状況などのファンダメンタルズ的な要因や、投資家による売買行為 (利確や損切など)などの影響を受けています。毎日株価が変動するのは、これらの情報が値動きに影響を与えているからです。

これは逆に、全ての情報は値動きに反映されることを意味しています。

つまり株価が今後上がるか下がるかを予想するには、価格 (平均株価)の値動きだけを見ればいいということになります。

この基本原則は「チャート分析が投資において非常に重要である」という、テクニカル分析の理論的な根拠になります。

基本原則2 トレンドは短期・中期・長期の3つに分類される
2つ目の基本原則は「トレンドは短期・中期・長期の3つに分類される」です。

株価のトレンドは時間軸ではこちらの3つのトレンドに分類できます。
時間軸ごとの3種類のトレンド
短期トレンド 1時間~1か月程度
中期トレンド 数週間~数か月程度
長期トレンド 1年~数年間
スキャルピングを行うのであれば短期トレンドを、デイトレードであれば短期~中期トレンドを、スイングトレードであれば中期~長期トレンドを意識するなど、自分がどのような時間軸でトレードをするかによって異なるトレンドを意識する必要があります。

基本原則3 主要なトレンドは3つの段階から形成される
3つ目の基本原則は「主要なトレンドは3つの段階から形成される」です。トレンドには3つの段階が存在します。
トレンドの3段階
第一段階 先行期
第二段階 追随期
第三段階 利食い
これらは投資家の心理を明確に示しています。

先行期 (第一段階)
先行期 (第一段階)は、一部の投資家が買い集めをする段階です。一般的に大口の投資家などが底値で買い玉を集めていくため緩やかに価格が上昇します。

ほとんどの小口投資家は、この段階ではトレンドが読めないため行動を起こしにくいです。

追随期 (第二段階)
追随期 (第二段階)は、先行期 (第一段階)での緩やかなトレンドに反応した投資家が買いを入れ、市場全体がその動きに追随し価格が大きく上昇します。

利食い期 (第三段階)
利食い期 (第三段階)は、トレンドの最終段階です。価格上昇をとらえた素人や初心者の一般投資家も参入し、さらに価格が上昇します。

一方で先行期 (第一段階)に買い集めをしていた投資家が利食いを行い、売り抜けを図ります。さらに追随期(第二段階)に買った投資家の利確も加わることで、やがて上昇トレンドが終了します。

利食い期 (第三段階)で買ってしまった投資家は高値掴みをすることになり、大きな損失を出してしまうことがあるため、テクニカル分析を駆使して追随期 (第二段階)でトレンドに乗ることを目指すとよいでしょう。

基本原則4 価格は相互に確認される必要がある
4つ目の基本原則は「価格は相互に確認される必要がある」です。

株式市場でいえば、例えば 工業平均株価と鉄道平均株価のトレンドには相関関係がみられるはずだということです。工業関連の景気が好調であれば、工業製品を運ぶ鉄道関連の景気も良くなるはずです。

同様に、為替レートであれば「ドル円とユーロ円」、仮想通貨であれば「ETHとERC20トークン」など、相関性のある市場の動向をチェックすることもトレンドをとらえる際に役立ちます。

基本原則5 トレンドは出来高でも確認されなければならない
5つ目の基本原則は「トレンドは出来高でも確認されなければならない」です。

これは本格的なトレンドが発生する際には出来高も大きくなるというものです。逆に出来高が伴わない上昇 (下落)はダマしの可能性が高く、本格的なトレンドとは言えません。

また出来高を伴った上昇 (下降)トレンドで、次第に出来高が減少している場合にはトレンドの終了を示していることが多く、トレンドの転換を捉えるのに役立ちます。

基本原則6 トレンドは明確な転換シグナルが出るまで継続する
6つ目の基本原則は「トレンドは明確な転換シグナルが出るまで継続する」です。

この基本原則は6つの基本原則の中でも最もトレードに応用しやすいものです。ダウ理論には複数のパターンがありますが、なかでもローソク足は短期トレードで確実な利益を上げたい人におすすめです。最高値を更新したタイミングで買い、さらに高値が伸びた段階で売れば利益を確保できます。

ダウ理論は全てのテクニカル分析の基礎といわれるほど重要な理論です。ダウ理論を応用することでより高度なトレード手法を理解することができます。

ダウ理論はFXでトレードをやるうえで、絶対に欠かせない常識のようなものです。しっかりと理解することは皆さんのトレードに大いに役立つことでしょう。